何だかうまくいかない。そんなふうに感じることはありませんか? そんな不調は自覚症状が出る前から、何らかの滞りとして少しずつ身の回りに姿を表していることも少なくありません。キッチン周りでの「うまくいかない」に対する、有賀薫さんの向き合い方。

くらしの中にもある「未病」

 ハッとしたときにはもう遅かった。洗っていた皿が手から滑り落ちた。運悪く流しに鍋にぶつかり、ふちが大きく欠けてしまっている。

 あああ……と思う気持ちが大きかったのは、それがとてもお気に入りの皿だったからということもあるけれど、夕飯に作った生姜焼きをなんと焦がしてしまった、ということも加算されてのことだ。

 何百回も作り慣れたおかずを失敗するというのはダメージが大きい。そんなことがあって、歯車がうまく合わないような気持ちをかかえていた。うまくいかないことは重なるもの、まさにそれを表したような日だったのだ。そもそも、お皿が落ちたところにあった鍋だって、そこにあってはいけないものだった。疲れて先に洗っておくのを後回しにしたのは、ほかでもない、私だ。

 そう、自分が感じる前から、じつは不調はひそやかに始まっている。

 中国の医学には、「未病(みびょう)」という言葉があって、病気とは診断されないものの、だるい、疲れが取れない、胃腸の調子が悪い、手足が冷える……そうした、さまざまな不調を感じている状態だそうだ。ちょっとコワイことをいうなら、病気に向かう現在進行形、みたいなこと。

 「未病」について聞いたとき、暮らしかたにもこれと同じような状態があるのではないかと思った。家の中、とくにキッチンには、未病が蔓延している。

キッチンは常にテトリス状態

 キッチンに立つということは、単に材料を切ったり炒めたり味付けしたりするだけではない。その仕事のほとんどは、取るに足らない細々した作業の積み重ねによってできている。

 買い物から帰って食品をしかるべき場所にしまう。料理中は流しにたまるゴミをこまめにまとめては捨てる。汚れていくボウルや鍋やまな板をどんどん洗って元の場所に戻す。切れそうになっているマヨネーズや牛乳や米をチェックして、明日の買い物リストに入れる。

 こうした雑務を次々とやっつけて、全体を滞りなく回していくこと。えんえんとそれらをやっていく必要がある。どんなに毎日真面目にやっている人でも、予定外のほんのちょっとしたことで、滞る。

 放っておけばいいじゃないと、家事に関わらない人たちは言う。でも、やっておくべき作業をあとで……、とつい見送ってしまうと、またたくまにそれらはたまって、自分自身の首を絞める。洗い物のカゴに朝の食器が積まれ、そこにあるべきキッチン道具が戻っておらず、冷蔵庫に賞味期限切れの食材が増殖する。

 そう、家事とは、やめることのできないテトリスみたいなものだ。

 ひとつならリカバーできても、こうした滞りが重なると、キッチンでやる作業全体の流れが悪くなる。今日はあれこれうまくいかないなあ、小さな失敗が多いなあ、と心の中で思うときは、まさしくキッチンの未病。

 お気に入りだったお皿のふちが欠けてはじめて、自分が家事に追われていたことに気づくのだ。

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