今年も残りわずか。矢が走るように真っ直ぐに駆け抜けたと感じる人、ぐるぐると迷路のように進んできたと感じた人。いろんな一年があったと思います。少しだけ足を止めて、自分の心と体の状態を見つめてみませんか?

疲れの自覚症状、ありますか?

 つい先月、『おつかれさまスープ』という本を出した。疲れを感じる人たちに寄り添うような、スープのレシピがたくさん掲載されている。

 夜遅くに帰宅して、疲れて何もしたくないようなときでもレンジで簡単にできるスープ、コンビニ食材など買い物が楽なスープ、体の疲れに効くような素材を取り入れたスープ、そして作りながら心をゆったりとゆるめるスープなど。

『おつかれさまスープ』有賀薫/学研プラス
『おつかれさまスープ』有賀薫/学研プラス

 口に出したことは自分の意志に関係なくそうなっていくから、普段からあまりマイナスワードは使わないようにしている。あまりに疲れた~、疲れた~と口にしていると、どんどん疲れた顔になっていくだろう。だからタイトルに「疲れ」という言葉が入る本はどうかな……と最初のうち、少し不安に感じていた。

 でも、私よりずっと若い編集の女性たちが口をそろえて「私たちの周りは、みんな本当に疲れているんですよね」と言う。だるさや、目覚めの悪さ、肌色の悪さ、やる気の喪失など、疲れは体や心、自分の暮らしのあちこちに顔を出しているという。

 私自身も、今年はかなり忙しかった。まだまだ若いつもりで疲れに無自覚でいたら、秋ごろにちょっと体調を崩して仕事先にも迷惑をかけてしまった。楽しい仕事も腹八分目だと思いつつ、その後もあまり改善できていない。

 どうやら「疲れ」はいまや、老いも若きもみんなが抱える悩みのようだ。であれば、スープという「癒しの料理」を日々作っている私が真っ向勝負を挑むのが、筋というものではないか。そう思って、本の話を引き受けることにした。

ぽってり卵スープ(『おつかれさまスープ』p40より)/とろりとしたスープが癒やしになることもあると思う。
ぽってり卵スープ(『おつかれさまスープ』p40より)/とろりとしたスープが癒やしになることもあると思う。

燃え尽きタイプの疲れ、不完全燃焼タイプの疲れ

 疲れには二つのタイプがあると思う。

 まず、オーバーワークによる、燃え尽きタイプ。いい仕事に恵まれている。人との関係も楽しい。ひとつひとつは充実していて、決して悪くない毎日だ。でも、一年をふりかえってみると、その総量がやはり自分のキャパシティを超えてしまっている、というケース。子育てをしながら夫婦で働いているような家庭にも、このタイプが多い。

 年末年始は暮らしの中に、大掃除、忘年会、帰省などイベントごとも多い。

 つき合い続きで胃腸も疲れる、お金もかかって財布も疲れる、連休でも休む暇がない。食べることが不規則になったりおろそかになったりして、疲労はますますたまっていく。どこかで何とかしたいと思いつつ、忙しさに流されていく。

 もうひとつは、空回りしがちな人に多い、不完全燃焼タイプ。

 師走の街を後にして家までの帰り道、2018年もあと少しだと思いを巡らせる。この一年、私は何ができただろう。ちゃんと自分のキャリアが積めているか、内面では成長できたか。進歩が目に見えず達成感が持てない。

 自分なりにはがんばってきたつもりでも、その結果に自信が持てないと、いわれのない疲れが心身を襲う。エネルギーがうまく燃やせずに自分の中でくすぶり、のびのびとした感情が持てない。疲れに近い症状が体に出る。

 今年もあと少しで終わってしまう、そう思うと自分へのリミットが迫ってくるような気がして焦る気持ちは、何もしていなくても人を疲れさせる。

 さて、あなたの疲れはどちらのタイプだろうか。

追い野菜カップスープ(『おつかれさまスープ』p64より)/スープの素に冷凍野菜をプラスする、こんな日があってもいい。
追い野菜カップスープ(『おつかれさまスープ』p64より)/スープの素に冷凍野菜をプラスする、こんな日があってもいい。

体と心の疲れを切り離そう

 疲れを撃退するにはまず、それが単純な「体の疲れ」なのか「心の疲れ」なのかを見極め、対策を考えることが必要だ。

 休息不足と栄養不足からくる「体の疲れ」は、原因がわかっているだけに回復の手立て自体ははっきりしている。寝ること、食べることだ。疲れているときは筋肉も凝り固まっているから、軽い運動やマッサージ、整体によっても、体がほぐれて疲れがとれるように思う。

 仕事が楽しい時期、一時的に忙しい時期は人生の中にあるとは思うし、忙しさ自体が悪いことでもない。でも体のサインに気づけないほど疲れてしまえば、多分仕事の上でもマイナスになっているはずだ。

 「心の疲れ」はもう少し複雑かなと思う。

 若い方が疲れているというときは多分、心が疲れている。体の疲れは若いほど早く回復するけれど、心の疲れは若いほど抜けにくい。流したり忘れたりできる年長者のほうが、むしろ回復が早い。

 メンタルの疲れは多くのところ、人間関係の疲れなのではないだろうか。ワンオペ育児疲れ、SNS疲れなど昨今の疲れはあるけれど、人間関係が良好なら、どちらも忙しさの中に、ある程度疲れを癒す場面があるものだ。人とコミュニケーションがうまくとれないということは、もっとも人にストレスを与え、疲れさせるのではないかなと思っている。こうした疲れは休息では治らない。

 ただ体の疲れと違い、つける薬がないのも心の疲れの特長。どう回復できるかも、人それぞれで、こうしたコラムだけでは無責任に書けない。そこが、ちょっとやっかいだ。

山椒と細切り豚のアロマスープ(『おつかれさまスープ』p60より)/スパイスで吹き飛ばない疲れだってある。
山椒と細切り豚のアロマスープ(『おつかれさまスープ』p60より)/スパイスで吹き飛ばない疲れだってある。

ほんとうに心から疲れてしまったときは

 疲れ対策のひとつとして『おつかれさまスープ』では、疲れを癒してくれるスープを紹介したけれど、正直なところ、心の底から疲れ切って、何もやる気が起きなくなってしまっている人に、この本を私が手渡すことはないと思う。

 心身の疲れを癒すためには様々な方法がある。アロマテラピーや、サプリメント、枕や寝具、音楽、ヨガやストレッチ……疲れている人向けのグッズや方法はネットをちょっと検索するとごろごろ出てくる。ちょっと怪しいものもある。

 でも、ギリギリまで疲れてしまった人にとっては、これ以上疲れさせるものはもちろん、疲れを癒そうとするものすらも、邪魔になる。

 必要なのは、アロマでもスープでもない。空白の時間と空間だ。自分に「何もしないこと」を許して、待つ。休もう、とすらしなくていい。ただ、自分の中の時を止める。

 空白の中に一定期間いると(どれぐらいかは人によるけれど)、心は自然に動きだす。その心が望むものを与えてあげれば、疲れは癒される。それがスープだったりすることは、あるかもしれない。

 疲れているという若い人たちを見ながら、そこまで疲れる前に、体と心をしっかり休めてあげたいよね、母親世代である私はつい思ってしまうけれど、そうはいかないことばかりだから、疲れている人が増えている。

 あったかいスープで栄養をたっぷりとって、お風呂に入ってぐっすり眠る。寒いけれど外に出て歩く。お金もかからない誰にでもできるそんな方法が、実はお疲れさまな人々にとって一番必要なこと。疲れをためない、長引かせない。そういうときに、この『おつかれさまスープ』は、きっと役に立つはずだ。

 頑張る人たちの心に留めておいてもらえたらと思いつつ、スープの鍋をかき混ぜている。

アボカドとえびのポタージュ(『おつかれさまスープ』p90より)/「好き」が浮かび上がってくるまで、ゆっくり。
アボカドとえびのポタージュ(『おつかれさまスープ』p90より)/「好き」が浮かび上がってくるまで、ゆっくり。