イギリスの料理といえば、以前はあまり評判がよくありませんでしたが、料理ブログを主宰するMischaさんは、なぜか魅了されてしまったのだそうです。その理由とはなんだったのでしょうか?

巨大な魚のフライにびっくりした思い出

 世界で一番有名なイギリス料理といえば「フィッシュ&チップス」かと思います。

 私がこれを初めて見たのは大学の卒業旅行で訪れたイギリスで、イギリス人の友人のお父さんがテイクアウトで買ってきたものでした。

 新聞紙でくるんであるのをお皿に出すと、巨大な魚のフライとフライドポテトがどっさり! 

 こんなに脂っこい食べ物を、野菜もなしによく食べられるなぁと見てるだけで胸やけがしたんですよね(笑)。

 脂っこい料理がテンコ盛りのアメリカでは見慣れた光景ではありますが、当時はインターネットがなく、テレビや雑誌でしか海外の料理を知ることができなかったので、現地で見て驚くものが多少なりともあったのです。

 今私が住んでいるアメリカの東海岸(北の方)はイギリス移民が多いせいか、この辺りのレストランのメニューにはフィッシュ&チップスがあるところが多いです。

 私が当時見たものを見事に再現したようなフィッシュ&チップスの写真を近所のレストランで撮ることができました。

こんな感じのフィッシュ&チップスを初めて見たときは驚いたものです
こんな感じのフィッシュ&チップスを初めて見たときは驚いたものです

 どうですか? このお皿、26cm径ですよ。その大きなお皿に魚が収まり切れず、はみ出してます(>_<)。食べ物を粗末にできない私は3日にわけて完食しました(笑)。

別のお店のフィッシュアンドチップス。こちらは魚が小さくカットされています
別のお店のフィッシュ&チップス。こちらは魚が小さくカットされています

 アメリカでは、お店によっては、この写真のように魚を小さくカットしたものや、ビアバッター(ビールと小麦粉で作る天ぷら生地)の代わりにパン粉で揚げるフィッシュ&チップスもあります。

目がテンになった、「トーストと豆」のランチ

 さて、イギリスで食卓に出されて、思わず目が点になったものといえば、これです。

トーストアンドビーンズ。スーパーで缶の豆を買ってきて、自宅で再現してみました
トーストアンドビーンズ。スーパーで缶の豆を買ってきて、自宅で再現してみました

 これは友人宅で出されたランチでしたが、トーストに缶のビーンズがそのままどーんと盛ってあるだけ。イメージはこんな感じです。

 お昼ごはんに、パンと豆だけ、これはさすがにおいしいとは思えなかったですね。

 こちらの世界の料理を紹介するサイト(英語)によると、「イギリスの最も有名な豆料理と言えば、このハインツのトマトソース味の缶詰め、すなわち、料理するんじゃなくて缶詰を開けただけ、おいしくなくてもよいからとにかく値段が安くてお腹いっぱいになりゃいい、これぞイギリス料理である」と、面白おかしく皮肉たっぷりに説明してあります。

 たしかに……そんな感じの味でした。

 ピザとハンバーガーにサンドイッチが一番人気のアメリカが美食家の国とも思えませんが、そんなアメリカ人でさえ、自分たちが作る缶詰めの豆のほうが風味豊かでおいしいというのですから、イギリス料理の評判自体は、30年前と今もたいして変わってないのかもしれません。

 でも実はイギリスにおいしいものもたくさんあります。私が西洋料理に興味を持ったそもそものきっかけはイギリスにあるんです。

私の料理の原点はイギリスにある

 私が料理ブログを開設して10年がたちました。

料理ブログ「ミセスNewYorkの食卓」http://suzannelane.blog42.fc2.com/ を始めて10年です
料理ブログ「ミセスNewYorkの食卓」を始めて10年です

 私の料理はアメリカの影響を受けたものと思われているでしょうが、実は私が西洋料理に興味を持ったそもそものきっかけはイギリスにあるんです。

 私が大学生だった1980年代はイギリスのポップミュージックが世界中でブームを巻き起こしていました。大学の生協にあったイギリスの音楽雑誌の「ペンパルコーナー」に友人とふざけて投書したところ、私の名前と住所が掲載されたんです。当時は東洋人が珍しかったのか、イギリスの若者たちからたくさんの手紙が毎週のように届きました。

 こうしてイギリスに数人の「ペンパル」ができた私は、さらに人脈を増やしたくて国際ペンパル協会に入ったのですが、そこで後に私の親友となる、当時60代後半くらいだった親日家のロン&キティ夫妻と知り合いました。

イギリスで私の親代わりとなってくれたロン夫妻
イギリスで私の親代わりとなってくれたロン夫妻

イギリスの料理はまずい?

 ロン夫妻は日本のペンパルたちをホームステイで受け入れていたので、私が大学の卒業旅行でイギリスへ行くことにしたときも気前よく家に招待してくれました。

 そこで就職までの長い休みを利用して、1か月ロン夫妻の家に滞在したのです。

 ご存知の方も多いと思いますが、日本でも人気があるジェイミー・オリバーや、アメリカで冠番組を持つゴードン・ラムゼイのような有名シェフが現れるまで、「イギリスの料理はまずい」というのが世界の評判でした。

 実際今でもネットで「イギリス料理、まずい」というキーワードで検索すると、おかしなほど結果がたくさん出てきます。私もその評判は知ったうえでロン夫妻のお宅にお世話になったのですが……。

 奥さんのキティが作る料理はどれもおいしかったのです。

 キティの個人的な腕なのか、あるいは異国にいると家庭料理にほっとしておいしく感じたのか。ロン夫妻の家から友人宅を転々としましたが、どの家庭でもご馳走になった料理は本当においしかったんです。

 ただし、レストランではおいしいと思ったものが何もなかったので、やはり世界の評判に間違いはなかったのかもしれません。

実はおいしい! イギリス伝統の家庭料理

 イギリスで、あちこちの家庭を訪問することができた私でしたが、典型的な夕食と言えば、一枚の大皿に、肉、野菜、じゃがいも、またはパスタが全部のった料理だったと思います。

 特に私の記憶では、メインの肉はローストチキンかビーフの場合が多かったのですが、たいていはグレービーソースがたっぷりかかっていました。どこの家庭でもつけ添えの野菜はぐちゃぐちゃになるほど蒸してあったような記憶がおぼろげにあります(笑)。

イギリスの夕食は、大体こんな感じでした(参考「なつかしいイギリスの家庭料理」私のブログの初期のログよりhttp://suzannelane.blog42.fc2.com/blog-entry-52.html )
イギリスの夕食は、大体こんな感じでした(参考「なつかしいイギリスの家庭料理」私のブログの初期のログより )

 このグレービーソースが当時の私には新鮮で、何ともおいしかったのを覚えています。

 ある家庭でどうやって作るのか聞いたら、肉汁に塩コショウしてコーンスターチを溶いた水少々を混ぜてトロミをつけるだけだよ、って教えてもらったんですが。なかなか彼らが出す味を再現することはできなかったですね。

グレービーソースは、肉汁に塩コショウしてコーンスターチを溶いた水少々を混ぜてトロミをつける、と教わりました
グレービーソースは、肉汁に塩コショウしてコーンスターチを溶いた水少々を混ぜてトロミをつける、と教わりました

 他にも思い出に残っているイギリス伝統の料理は、バンガーズ&マッシュやシェパーズパイ。これらは今でもたまに作りますが、なかなかおいしいですよ。

イギリス・アイルランドの代表的な料理、バンガーズ&マッシュ(別名ソーセージズ・アンド・マッシュ)。私のブログhttp://suzannelane.blog42.fc2.com/blog-entry-727.htmlより
イギリス・アイルランドの代表的な料理、バンガーズ&マッシュ(別名ソーセージズ・アンド・マッシュ)。私のブログより
アメリカのイギリス系パブレストランでも人気のシェパーズパイ。私のブログhttp://suzannelane.blog42.fc2.com/blog-entry-720.htmlより。イギリスのこうした料理はおいしいと思います
アメリカのイギリス系パブレストランでも人気のシェパーズパイ。私のブログより。イギリスのこうした料理はおいしいと思います

イギリスで料理が喉を通らなくなった理由

 ところでおいしかったと絶賛したばかりのイギリスの家庭料理ですが、実はある日を境にせっかくの料理が喉を通らなくなってしまったことが起きたのです。

 前述のロン夫妻に滞在中のこと。

 各食事の後はいつも夫婦で協力し合って食事の後片付けをしていました。妻のキティが皿を洗うとそれを夫のロンが次々にふきんで拭いて片づけていくのです。

 夫がキッチンで妻と一緒に後片付けをするのはイギリスではよく見た光景でした。

 そんなある日、ふと片付けの最中にキッチンへ入ると、洗剤を入れたシンクの中の食器をキティがスポンジで洗うと、ロンがその泡だらけの水の中からひょいっと食器を出して、そのままふきんで拭いてるのを見てしまったのです。

 なんと泡だらけの食器を水ですすがないんですね。

その時の様子を私のキッチンで再現してみました。こんな感じです
その時の様子を私のキッチンで再現してみました。こんな感じです

 まだ大学を出たばかりの若かった私には、ゆすがないんですか?などと聞く勇気はありませんでした。うっそ~と思いながらそのままキッチンを出たものの、それ以来、出されるものが「あのお皿に食べ物がのってるのか……」と思わずにいられなくなったのです。

 食事はまだしも、すすがずにラックにあげただけのマグで紅茶を飲むのはさすがに耐えられず、こっそりキッチンで洗いなおしたものでした。

 ところでロン夫妻の名誉のために書き足しますと、この「ゆすがない」皿洗いはイギリスではごく普通のことのようです。

 ネットで「イギリス、食器洗い、洗剤ついたまま」といったキーワードで検索してみてください。かなりの数で体験談や情報が出てきます。水資源がそれほど豊かではないのでしょうか?

 かたや水源が豊かな地域のアメリカでは、非常に無駄な水の使い方に時々あきれることがあります。

 水の節約が売り文句の食洗機なのに、思い切り蛇口をひねってジャージャー水を出しっぱなしにしながら、食器についた食べかすや油をほぼ落としてから食洗器に入れるアメリカ人の多いことといったら。二度洗いするなら手で洗ってしまった方が早いのにと思います。

 あんなこんなの思い出がたくさん詰まったイギリスでの食体験。

 この大学の卒業旅行のあとも何度か訪れたイギリスで、こうした暖かい家庭料理の味にふれ、たとえ世界ではマズイと言われる料理でも私はなぜか心底魅了されました。

 ここから私の西洋料理を探求する旅が始まり、今に至っているのです。