子どもの頃においしかったアレ

ある日の晩酌のこと、夫が熱を込め語り出した。
「小さい頃、家族でよく行ったお店にサラダピザってのがあってね? それがめちゃくちゃうまかった記憶があるんだよ!」と。
聞いた瞬間驚いた。
「え! え! それ、私もだよ!」
私が幼い頃、それは我が家でもまた外食時の大人気メニューだった。1枚じゃ足りないね、おいしいね〜と家族で喜んだものだ。
どうやらそれが、今はなきファミリーレストランの1品だったとわかるまで互いの記憶を話し、互いの両親に電話までした。
それぞれが経験した、小さな頃の記憶。不思議と、一瞬で口がサラダピザになるほど鮮明に味がよみがえった。
後日記憶をたどりながらサラダピザを作り、せーの! と夫婦で共に食べた。その瞬間の懐かしさといったらなかった。
子どもの頃に食べたものって、実は意外と覚えている。
母になり、食事を作るようになり、香りを通じて思い出す記憶がたくさんあることに気づいた。

鮭を焼くと思い出すおばあちゃんの家。
ひじきやかぼちゃを大きな鍋で甘く煮る、小さなおばあちゃんの姿。
ほんのり甘い卵とケチャップたっぷりのホットサンドは日曜日のお母さんの匂い。
不思議と作るたびによみがえる、幼き日々のおいしかった味。食卓の匂い。
私の子どもたちもまた、私や夫と一緒に食べたあの場所のあの味を、私の作った料理を母さんの作った味として思い出す日がくるのだろうか。
実は、料理が苦手な母さんだった
そんなことを書いたあとだが、実は料理が全くできなかった。
新婚当初は小さなホットプレートで毎晩鉄板焼きをしていた。
ビールには合うけれど、鉄板焼きばかりじゃだめだよな……と考え、見よう見まねで料理を始めた。
小さな洋間の一口コンロで3時間かけて作っていたあの頃。
ぼろぼろのロールキャベツの日も、べっちゃべちゃなチャーハンの日もあった。
「マ、ママ〜! 煙が出てる!!」と娘を泣かせ、慌てふためいて水をかけ、丸焦げで水浸しのなすが出てきた日もあった。
今でも友達におもてなしするはずだった料理をフライパンごとひっくり返して床に落とし、笑われる、というようなことがよくある。
おっちょこちょいで不器用。でも料理が好きになった。ただただ、相手の喜ぶ顔が嬉しいからだと思う。
「ママ、これまた作って! あ、それワタシの! 食べちゃダメー!」とおかずを取り合う子どもたちの愛おしい姿が見たいから。
「うんまい!」とたまらなそうにビールを流し込む、夫の横顔が見たいから。

料理を仕上げる時間がたまらなく好きなことも、もっとたくさん覚えて作ってみたい、と思えるきっかけだった。
作りながら『さぁ、これを何にどう盛り付けよう?』と考えるだけでワクワクする。
よく、「何ニヤついてるの?」と夫につっこまれるほどだ。
我が家の味を作っていくということ
大切に育ててくれた両親の思いが、家族の風景がきっと、私と夫の親としての在り方につながっている。同じように、夫が食べ育ってきた味、私が食べ育ってきた味がある。
おにぎりの握り方も違えば食の味付けや食べ方、習慣も違う。それぞれの味があり、それがつながってきっと今私が作るごはん、
『我が家の味』になっているのだと思う。

「ママが作るごはんで何が1番好き?」とある時子どもたちに尋ねてみた。
「骨つきのお肉!」(手羽元煮)とワタシ。「トーフ!」(揚げだし豆腐)とボク。「あとね、カイとたきこみ!」(アサリの酒蒸しと炊き込みごはん)と姉が叫び、ボクもまねしてそう叫んだ。
……完全に私たち夫婦の飲兵衛の血を継いでいるようだ。
これからもきっと、家族みんながアレアレ! と思い出す、我が家の味が増えていくのだろう。
それを時にニヤつきながら、時に失敗しながら母さんは楽しみたい。
今日のパパっとつまみ:鯖缶のなめろう
父さんの大好物のなめろう。おかげで魚をさばけるようになりました。が、忙しい日には鯖缶で。誰でも手軽に作れて、保存も可能!

材料(2〜3人分)
- 鯖の水煮缶 1缶(お茶漬けの場合は汁をとっておいて少し入れます)
- 小ねぎ 2本
- しょうが 1かけ(薄くスライスした時10枚ほどの量)
- セロリの葉 4〜5枚
- Aごま油 小さじ1
- Aみそ 大さじ1
- A醤油 小さじ1
- A酢 小さじ1
- いりごま 適量
- 七味 適量
作り方
- 鯖缶の身と汁を分け、身を軽くほぐしておく。
- 小ねぎを小口切りにし、しょうがとセロリの葉はみじん切りにする。
- 1、2を全て合わせたら、まな板に広げて包丁でたたいて細かく刻む。
- Aを加え、さらに包丁でたたきながら混ぜる。
- まんべんなく混ざったら器に盛り付け、お好みでいりごまと七味をかけ完成。